AKESUKE SUNSET Lv.9

LOVEを多用すなDEATHがよ

質素な農家みたいだね

「健康な血の色って、一目で分かるものですか?」

「えっと、これはまた心臓に戻っていく静脈血なので、結構黒いです。動脈血は、わりと真っ赤なんですよ」


私が馬鹿すぎて問いに対する答えを汲み取れていないのか、

相手が「何だこのキモ患者だるっ」と思い、いなすための適当返事をしただけなのかはわからないけど

とにかく、この日はンア?が多かった。ンア?が。


私だっけ?私が嫌がる相手を無理矢理に、飯食おうぜ!の一言で地獄時刻18時の渋谷に収集をかけたっけ?いいえ。


はぁふぅ、ラマーズ法?

え、何、もしかしてこいつ、生まれそう?

なあ、帰ろうよ。体調悪そうだし、え。大丈夫?そんなこと気にすんなって?とりあえず飯は一口も食えないけど、ビールだけ飲む?あ、ああ。そうですか。どうぞどうぞ。トマトでもどうぞ。塩でもつけてね。あ、つけない。そうですか。私?私は別でしこたま食いますから黙って椎茸の肉詰め食ってるとこみて。カツオとだだ茶豆も頼むよ。焼きそばか焼きうどんは食えないか。じゃあ、なんこつ炒め、も、やめとくか。このナスの揚げ浸しどのくらいの器で出てくるか聞いていい?あ、なに、これを食ったら帰ろう?おーわかったわかった。トマトも全部食べちゃうね。


「なんか、あれだね、このテーブルの上、質素な農家みたいになってる笑」


いいえ。


謝りなさい。私と農業を営むおじいとおばあに。山住み畑持ちの食卓で二人前の量のカツオのたたき出てこねえだろ。まだ漁師の夕飯と比喩するなら分かるがふざけるのはよして。自ら振った話題で自身が望んでいなかった回答を耳にあからさまにサゲ⤵︎するんじゃあない。いくら馴染みのある友人とて、充電3%で人と会おうとする自分にも非があるかもしれない。が、いいえ。血抜いてもらってる時から何かがおかしかったこの日は。


となれば、人は練り歩くしかなく、少し高さのあるサンダルが親指と小指をうま〜い具合に擦り付け、いた〜いと思いながらもザクザクと進む前足を思うに、終始ンア?で終わるこの日に焦りと苛つきを隠せないでいた。


遡ること2時間前、隣駅では

刃物を持った10代の女性に、何ら面識のない親子が刺されて倒れていたらしい。


そんなニュースも梅雨知らず、救急車のサイレンだけが耳に過ぎたのも後の話で、充電が切れたままの携帯をポケットにしまい、45分間、情報が飛び交い続ける電車に乗っていた。


ドアが閉まります。ご注意ください。

「やばいやばい閉まる!」

プシュー


後続にいたカップルは、先に乗ったカップルが車内の奥に進まなかったことで、急行電車には乗れなかった。キャキャキャキャ。彼女であろう女は困ったように笑い、彼氏であろう男は笑ったらいかんだろうという風にこめかみをこづきながら笑っている。閉まる寸前に聞こえた「まじかよ」という声が、ドアの隙間に挟まったままで居た堪れない。私は、こいつらマジで嫌いだな。知らんけど。と、思う。見ず知らずの他人に対して、よく湯沸かし器のように一瞬で嫌悪できるなとも、思う。


小麦色のギャルと、本体がどれだか分からない小麦色のサングラスが、立ったまま腕枕してる。ギャルはサングラスの腕の中寝てる。意味わかるかな?ベットの上で、腕枕して眠りにつく恋人たちいるじゃない。あれを電車の、5号車の弱冷房で、吊革につかまりながら、直立不動でやってる。すげえや。UFO(焼きそばの)アホみたいなショップバック引っ提げてるから、まあ、そうなのだろうと思ってはいたが、よくみたら二人とも肩にぎらつくバックを持っていた。サングラスだけじゃなかった。こういうのって普通、どちらか一人だけで済む話じゃない。双方なんだ。あら。UFO(焼きそばの)ショップバック、2個持ちは、なんかもう。最寄り駅に着く頃、携帯の充電を忘れ出掛けてしまったことを、ようやくしっかりと後悔する。


押すなよ〜押すな〜そのスイッチは押すなァ〜!あ〜!で、おしまいになるしはじまったりもする。

緑を超えた青い山並みが、視界に飛び込んでしまったら、気は遠く遠く、なる一方だ。