AKESUKE SUNSET Lv.9

LOVEを多用すなDEATHがよ

目が慣れてきて地平線が見えてそれから

 
 
 
 
 
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A post shared by 断面図 (@sunagimoinu)

 ここ最近の話でいうと、大概の記憶がない。ごっそり抜け落ちてしまっているというよりかは、常に曖昧でぼやけているのが現実であるからして、どこからがアルコールでじゃぶじゃぶになっている時の感覚で、どこまでが醒めた夢の続きなのか、わからなくなってしまっている。古のオタクでいう\もうダメぽ/や、木下樹里でいう「羽根になって堕ちるだけさ」のように忌々しい近況報告は他にもあった。先日、身をもって知ったこと。人が予告なく死を悟るタイミングは「よし、死のう」などの意気込みや、確固たる意志で訪れるものではなく「体が、透けちゃう」と感じた時であると。ぶるる。巻き戻すビデオテープの隙間からこちらを覗く顔。汗とはまるで別物の冷や汗が、額に降りてくる。自分はただ死なないだけなのだと、そう思う。

 

「26日(金)の夜、集合、よろしく」

 

 震えないはずの携帯とタイミングよく目が合った。あの日、ただ散歩をしていただけなのに、気が付けば足がボロボロになっていて、気が付けば生き物でいることが許せなくなっていて、気が付けば身体が透けていたあの日。たすかて、この世で一番みっともない誤字、そのSOSを見て連絡をしてきた後輩一人からの通知。一瞬たりとも視界に入れたくないSNSから来ていたメッセージに気付いたのは5日前。その気持ちの通り「開きたくないから、LINEで」と、自分で連絡すればいいものをせめて、という言い振りで返答をした。冒頭の集合時間が、緑マークの連絡ツールに届いたところに遡る。

 

「金ないから電車乗れない^_^」
「なめるな。家まで行く」
「You Are Cool.」
さわやか3組でいい?」
「モチのロン。金ない遊びできる?」
「海に行きます。以上です。」

 ものの数分で終了する会話。自分から連絡することも、予定を立てることも、食えない生魚と同じくらい苦手で、昔からひたすらに受け身であることに自覚はあったがここ数年でようやく、受け身や内向的などといった可愛い言葉ではなく、ただただ予定が立てられないADHD気質の鬱持ちということが発覚しただけの話であった。年齢を重ねること、頭が悪いのに変な知恵がつくこと。なんて残酷なのだろう!と!また、ストロング缶に手を伸ばしながらYouTubeを開きゲボ。犬 戦争 家族 帰還。泣く。オージョーンアイムバック。ハウハブユービーン。泣く。そうして浄化する。ああ、愛とは素晴らしい。言葉に変え難く、どうしてこれほどに尊いのか。涙が止まらなくて、なにも考えられなくて、目の前も見えなくって苦しいや、むせ返り、よかったよかったよ。あああああよかった。で、明け方気絶すれば事なきを得ている。無職三十路手前実家住まい。地獄の三原則?これが1月から8月の今日まで続いている。神様ってやつの顔が見てみたい。酷い奴だ。猶予を与えている場合じゃないだろう。早く殺してくれたらいいのに、は、嘘です。無礼をごめんなさい。今のはどうか聞かなかったことにしてください。でもどうか、早く早く、楽にして欲しい。

 人に依存することで生き永らえているカスこと自分は、前日もへべれけに酔っ払いながら友人と酒を飲みカラオケで日々の流れを忘れ、勿論銭なし。何度目かの恩に切るを、あまり言いすぎても何だこいつきめえな本当に申し訳ないと思っているならノコノコ店に来るんじゃねえよと相手が思うことは違いないため「本当にすまねえ」の、"え"の後に小さい"っ"が入るか入らないか絶妙なラインで感謝と謝罪の真ん中の気持ちを述べる。気付けば夜が走り去って、一定の条件を満たしている者のみを受け入れてくれる朝が自分以外の世界を包み込んでいた。何の話をすればいいのだっけ。何十時間後、迎えにくると言い放った彼女らに、何を開け渡せば俺は俺に許してもらえるのだっけ。そんなことを考えて、考えていないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイース。来たか」
「うわ〜久しぶり!本物じゃん…」

 

 ガソリンスタンドに停留していた車の窓から、待っていましたと言わんばかりに、垂れ下がった腕が持ち上がりこちらに合図を送っていた。来いと言われたのだからそりゃ来るに決まってる。と、返したくもなるのだが、今の自分に確証がないことを相手がわかっていることをわかっているので「やあやあ」とか、口癖の「悪りいね」を発したりして乗車した。本物じゃんに関してはそうだよとしか。ことの発端など聞かずしても、自分のことを心配に思い、今日この時間を作ってくれた二人のことだろう。せめて行き先くらいは問うべきかと、口を開く瞬間に「葉山の方の、なんかそっちの方に行きます多分」と、適当な運転手が言った。元気にしてた?まあ今日は全部話しに来たからゆっくり、という割に早口で捲し立てるものだから、このスピード感を何故か自分も久しいものだと感じてヘラヘラ笑み。一度、ドンキホーテに立ち寄るらしい。飲み物や本日マストアイテムの火を入手するのだとか。頭が悪めの奴らが3人も集まってしまったので、目的の販売コーナーに辿り着くまで店内を5周したり、各々のタイミングで喋りたいことを喋り笑い、相当騒がしく会計までを終え店内を後にした。気付けば右手にはストロング缶。どうしようもないが、身体で払うというつまらない約束をしてまた車に乗り込んだ。友人の中でも不評の車内DJを自分が担っていいか尋ねると、いいよ。と一言告げ、アクセルを踏む運転手。ライトが付いていない。こちらは喋りながらだと選曲ができない。シングルタスクってやつだ。助手席の天才は、もはや何の話で笑っているのかすら分からなかった。病気だ。先が思いやられる。デスドライブと言って笑っていたから「でも、本当に死んじゃっても何も問題ない」と懲りない発言をした。「そっか、じゃ安心だね」と、運転手は気の張った声をこちらによこす。ごめん、と思いきや数分後。当たり前のように片手ハンドルで山道を降り、足を組みながら右足のみでペダル踏んでいた。それここ以外ではやめた方がいいよマジで、と言ってしまったのはマジでやめた方がいいからである。「なはは無意識だ」馬鹿なのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 葉山にある浜辺に辿り着くまで、随分と軽快に話をしていた。自分でも、ここまでハッキリとした口調で久方ぶりに再会を果たした友人の前で口が回るとは思っておらず、躁鬱時のハイの方でいられていることに感謝をする。「これ、そろそろ着くかも!」携帯を持っているだけのナビゲーターが声を上げた。マップを見せてもらう。拡大。伸縮。そこらへんの駐車場に停めよう。山道を曲がるたびにギャリギャリギャリ!と呟いていた運転手は、指示通りゆっくりとPへ進路を変えた。ムワッとした外の空気が、扉を開けた勢いでこちらの肩を少し押す。暑い。葉山の夜はまだまだ暑かった。大きく伸びをして、浜辺へ向かうが土地勘がないことも相まって、住宅街を歩いているだけでここには本当に海があるのか?という気持ちになってくる。ザザーン。少し向こうの方から、波の音が聞こえた気がした。小道を抜けると、いかにもラブホテル的な施設が見えたので「あそこ絶対にラブホテル」と言うと「屋上開放的すぎない?エッチするだけなのに?」とひとりは眉間に皺を寄せる。エッチするためだけの開放的空間、何が悪いというのだこのバカチンめ。「普通のメチャクチャ良いホテルっぽいよ。見て」と、もうひとりの後輩が驚くべき仕事の速さで文明機器を利用しホテルの内装をこちらに提示した。早く海を見ろよ。

 

「………」
「………ぅぉ~」
「海、こ〜〜〜わ」

 

 一寸先は闇、という言葉がまさに、な情景に3人揃ってビビり散らかしていた。ひとりが「葉山の海、暗!」と、叫んでいたがそれはお前の目が慣れていないだけで、どこの海であろうが夜は暗い。し、その内「目が慣れてきた」とか言い出すのだ。夜中の海を見て開口一番に「真っ暗」だの言うやつが、二言目にでかめの声で発するワードがそれだ。学生以来の、多少無理をして海に行く、というアグレッシブ行動にまだ動揺しつつも、このままではいくら経っても当初の目的に辿り着かないため、いそいそと購入したアイテムをバラしていくことにした。ありがとね、と言いながらふたりは手元をライトで照らす。二つも明かりいらねえだろ、と思いつつ、この状況下において全く関係のない話をし続ける彼女らの声の下、準備を進める。線香花火が二本しか入っていない旨を伝えると「いっそいれんな」と文句を垂れた。それもそうだ。が、火をつけるところまで整った。いざ出陣、持っていたライターがカチリと音を立て、引火。おおお、などと小さめな歓声を上げながら、続け続けと、もう一本を手に持ったその時。ザザーン。はえ?自分たちの陣地としていた場所が、足元が、波にさらわれた。

「うわッ」
「やばいやばい、濡れためっちゃ濡れた」
「待って待って携帯、携帯が荷物も」

 

 開始2分で全ての手持ち花火がおじゃんとなり、終了。俺たちの人生っていつもこうだよな、と言っても誰も笑っていなかったのが印象的でした、と、どこぞのレポートに書き込むような感想を。悠長にヘビ花火なんぞに火をつけている場合ではなかったのだ。幸いにも、打ち上げの方は無事だった。謎の笑いゾーンに没入しているふたりにカス残骸を移動してもらいつつ、そそくさとパリピロッポンの準備に取り掛かる。もはや、この花火がショボかろうが、案外綺麗だわねだろうが、突如として自分が立っているフィールドが海になったことの瞬間風速には勝てるわけがないので、それらを従順承知の上、パリピロッポン打ち上げに取り掛かる。因みに、パリピロッポンとはこいつに付けられた商品名であって、開発者は三徹とかしていたのだろう。死んだほうがいい。行くぜ、炎で何度か親指を焦がしながらも火をつけた打ち上げ花火。

ジュボッ

パンッ

パパパパパパ

パチンパチン

シュシュシュシュ

ジョワー

 なんか案外綺麗だわねだった。
 暫くしてから、三人で浜辺を後にした。


 その後は、まあなんか色々あった。本当に、まあなんか色々。マッチングアプリで出会った女と江ノ島でどんぱちやる前の出来事を再現VTRの如く説明し、いよいよ物語も大詰め、ここで仕掛ける決め台詞「パイ返しだーーーーッ!」と声を上げた瞬間、ゲリラ豪雨。限界まで空気を入れた風船が、予告なく破裂したような激雨。誰が引導するわけでもなく、本日二度目の叫び声を上げながら走り出す。「待って、これ氷じゃない!?」「おいおいおいおい黒猫通った」「トトロみたいだねえ」総じて意味がわからなくて怖かった。ここはどこぞのまぼろしか。なんか、みんな笑っていた。なんとなく、笑いが絶えなかった。思い出さなくても脳裏にへばりつくような出来事が、他にもたくさんあったのだけれど、脳みそがそろそろ正常に戻りそうだったため、少し休むことにする。ドラムを褒められると嬉しいこと、蕎麦が好きなこと、一時期通っていた銭湯、人との別れ際で久しぶりに振り返ってみたこと。全部を、全部を忘れた時にまた足元から透けていくかもしれない。その時はその時だ。今は眠ろう。起きたくなる時まで。この先、この中の誰かが先陣を切ってしまったら、今日この日をことを思い出すことは言うまでもない。だから何、という訳ではないのだが、神さまだって大目に見てくれる日があるのかもしれない。

 

「もしもまた死にたくなったら、絶対に今から死ぬって伝えて死んでね。誰にも何も言わないで居なくなろうとするのだけはやめて。許可、そう。いいよって言われてから、居なくなって。黙ったりしてそうしたら、怒るよ。」

 

 言わないよ。でも、わかった。